大子(だいご)で漆掻き見学
漆畑へ
茨城県大子町にて、Act.CSUのメンバーで漆掻きを見学させていただきました。
案内してくださったのは漆搔きの岡慶一さん。
里山の車道に車を止めて、ときどき草や泥に足を滑らせながら5分ほど獣道を上がっていくと、
背の高いウルシの木が立ち並ぶ、漆畑に到着しました。
いままでも何度かあちこちで漆畑を見学してきましたが、今回初めて目にしたものがありました。
それは、このジャングルジムのようなウルシの木組み。。。
なんだこれ???
アスレチックでしょうか。。。
ターザンが住んでいるとか???
・・・なんとこれ、岡さん自作の足場でした。
木の高いところを搔くために、足場を作ったのだそうです。
「殺し搔き」と「養生搔き」
なぜこのような足場が必要だったのでしょう。
それは、この漆畑が何年も放置された状態だったからでした。
春に、岡さんが山主さんからの依頼を受けて初めてこの場所に来たとき、まず、車道からの道はありませんでした。
先ほど上がってきた「獣道」は、実は岡さんが自分で草を刈って作った道だったのです。といっても、すぐ脇には本当に獣=イノシシが作った道もあり、出くわすことも少なくないそうなのですが。。
そして当時、ウルシの木の周りは、人がすっぽり隠れてしまうほどの高さまで伸びた下草に覆われていました。それでも木は下草より十分に背が高く、葉も良好だったため、岡さんはこの漆畑で漆掻きをすることを決めます。(搔き子さんたちは、葉の状態や枝振りを見て、漆の出具合を判断します)
ところが、下草を刈ってみてびっくり。草に覆い隠されていた幹には、以前に漆掻きをした痕が残っていました。
近年は、10~15年ほど育った木をひと夏かけて漆掻きしたら伐採してしまう「殺し掻き」の手法が主流です。一方、数年にわたって漆を搔く手法を「養生搔き」と言い、江戸時代までは日本でも珍しくありませんでしたが、現在は中国や東南アジアで多く行われています。
本来なら伐採される木が何らかの理由でそのまま生かされ、しかも非常に条件が良かったためにその後の回復と生育も良かったのでしょう。岡さんが最初から意図していたわけではありませんでしたが、この漆畑では養生搔きをすることになりました。
昔の掻き跡はこのようになります。
真ん中の辺り、搔いたところがいったん朽ちて窪み、両脇から修復しようと木の皮が覆いかぶさってきているのが分かります。生命の力ですね。
今回、新たに漆を搔くのは傷のないところを選びます。
手が届く範囲はどこかしらに傷があり、搔ける部分が限られていたので、岡さんが木の上の方を搔くことにします。大きく育った木は上の方でも十分な太さがあります。
そこで作ったのが、この立派な足場でした。
それにしてもカッコいい!!
よくぞここまで一人で作ったものだと感服です。
いよいよ漆掻き体験!
この日、特別に、漆掻きを体験させていただきました。
これが道具。
左から、チャンポ(漆壺)、皮剥ぎ鎌、漆ガンナ、ヘラ。
まず皮剥ぎ鎌で木の表皮を払い、
漆ガンナのU字型の刃で、幹の表面に1本傷を入れます。
なるべく前の傷に平行に。。。これが結構かたくて難しい。両足を踏ん張り腰を入れます!
それから先がとがった刃でもう1度傷を。このとき、深すぎても浅すぎてもいけません。
うまく傷をつけられるとみるみるうちに出てきます。透明な漆が!
まもなく液は白くなり、やがてカフェオレ色に。
ウルシの木の命を直に感じながら、貴重な漆を1滴、1滴、ヘラで掻き採ります。
もたもたしていると漆液はだらだらと垂れてしまいます。垂れる前に掻き採って、チャンポという桶に入れます。
この日参加したメンバーは、金継ぎや漆芸を勉強中。漆の貴重さを分かっているからこそ感動もひとしお。そして真剣です。
貴重な経験になりました。
漆掻きという仕事
今回は改めて、漆掻きという仕事の大変さと偉大さを実感しました。
最近はメディアでも取り上げられる機会が増えた漆掻き。
木に傷を付け、ジワリと染み出る漆液を採取するところがクローズアップされます。
しかし夏の暑い時期、特に今年のような猛暑のなかで黙々と続く作業は、TVの画面からは想像できないほどの過酷さだったことでしょう。
しかも漆搔きの仕事はそれだけではありません。
6月にシーズンが始まる前に、搔く木を見極め、下草を刈り、ときには道を作り、足場も作り。。。
大抵は孤独な一人作業。
もともと家具塗装の仕事をしていた岡さんは、たまたま参加した漆の体験会でその魅力に目覚め、大子町に移住して、修業を積まれました。
見事に組み上げられた足場、そして凡人なら半泣きになりそうな大変な仕事について冗談を交じえて楽しそうに話してくださる岡さんを見ていると、分かります。岡さんがものすごく漆が好きで、ウルシの木が好きで、漆搔きの仕事に誇りを持っていることが。
いま、国産の漆は足りていません。
建造物の重要文化財修復には、国産漆が必要です。
併せて、すぐれた工芸や上質な暮らしの漆器を生み出す素材としても、国産漆は不可欠です。
そのなかで、大子を含む奥久慈地域は国内第2位の漆産地として重要な役目を負っています。
と同時に、山間の集落に眠る耕作放棄地。
農業と林業、そして漆産業を踏まえてこのような土地を見直し、仕組みの整備を一歩前へ進めることができたなら、里山の循環型経済が息を吹き返すと、地域活性化にもつながると、漆掻きという仕事がその重要なカギのひとつであると、常に感じます。
この日も漆畑を後にして、イノシシさんと岡さんが作った道を戻りながら、
かつては農地だったという草ぼうぼうの景色を眺めて改めてその思いを強くしました。
新たな取り組み
午後からは、この日参加したメンバーと、岡さんの奥様もご一緒に、
ウルシの木の活用についてブレストミーティングになりました。
こちらは奥久慈漆生産組合の皆さんが作っているウルシの木の植木鉢。
漆で染めてあります。
優しい黄色と美しい杢目。そして丸くてかわいい形。
冬頃にはFEEL Jにも届く予定。楽しみです!
とても楽しく有意義な1日でした。
岡さん、シーズン中のお忙しいなか、お時間を作ってくださりありがとうございました!