香川漆器の未来を支える「さぬき漆」の取り組み

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高松訪問のきっかけのひとつは、
ウルシ植栽活動が行われていることを知ったことでした。

教えてくださったのは、3代続く漆器工房「中田漆木」の中田大輔さん。
そして中田さんと一緒に植栽地に案内してくださったのは、「讃岐漆芸美術館」オーナーの多田博文さん。高松市でウルシの植栽活動を行う団体「さぬき漆(NPO設立準備中)」の事務局として活躍されています。

この日見学させていただいたのは、「西日本の漆をまもる会」の香川担当でもある加藤久雄さんが所有する、日当たりのよい斜面に広がるみかん畑…の縁に植えられたウルシの木!

みかんの木、そして手前のオリーブの木と並んで育つウルシの木が、
何とも瀬戸内らしいおおらかさを醸し出していて素敵でした。
(逆光でのスマホ写真なので見えにくくてすみません。。。)


まるで並木道のようにウルシの木が続いています。



掻き跡のある大きな木が1本と、若い木がたくさん。
古いものは14年ほど前に植えた木です。
気候の良さからでしょうか、いままで見学してきた東北や北陸の木より生育が早いように見えました。まだ4年の木が、会津で見た6年木くらい。とはいえ、思うように育たない別の植栽地もあるそうで、まだまだ生育の条件は手探りとのことでした。高松の夏はかなり暑く40℃近くになるため、日当たりが良すぎるのも一概に良いことばかりとは言えないのだそうです。

ところで、このように育てている香川県産漆は、実際に使うことができるのでしょうか。香川漆器は「彫漆(ちょうしつ)」など、厚く何層にも漆を塗り重ねてからそれを彫刻する技法が多いため、大量の漆を使います。よって、硬度も価格も高い日本産漆よりも、粘度が高くてコストが安い中国産の漆を使う方が理にかなっています。

たとえばこれは、私が中田さんの彫漆ワークショップに参加したときの写真。
 
厚く塗られた漆の層を刀で彫ります。漆の彫刻は繊細で、なかなか思うように刀が進みません。何色かの漆が塗り重ねられているので、彫る深さによって現れる色が違います。
右の体験用の小皿でも、13層の漆が重ねられています。100層塗っても厚さ3ミリ程度。実際の作品にはどれほどの労力と漆が使われているか、想像できますね。

しかし近年、中国産漆も価格が上がってきました。
人件費が高騰し、そして中国での漆器生産量も増えているのです。
万が一、中国から漆が入らなくなったら、日本の漆産業はどうなるのか。これほどまでに外国産に頼る状況を看過していてよいのか。
このような危機感は全国の漆器産地に広がっており、香川も例外ではありません。

現状、あまり彫漆技法には向かない香川県産漆ですが、搔き方や精製の方法によって漆の性質は変わるはずです。また、彫漆以外の技法にはもちろん使うことができます。

今回訪問して印象に残ったのは、
西日本の各地が連携してウルシ植栽活動を行っていることです。
加藤さんが所属する「西日本の漆を守る会」は、京都(丹波)・岡山(備中)・徳島(阿波)の漆に関わる人々が活動するネットワークです。また、今年の1月には、岡山、鳥取、広島の中山間地で住民や行政が連携して、漆の植栽活動に取り組むことがニュースになっていました。
多田さんたちの「さぬき漆」の活動も、高松市内にとどまらず、隣のさぬき市、そして高知県まで広がり始めているのだそうです。

帰りがけに加藤さんが多田さんに声をかけます。
「来月、倉吉行かんん?(さぬき弁)」
「いくよ」
「泊まり込みよ(笑)」

倉吉とは、鳥取のウルシ植栽地。新品種の苗を分けてもらうのだそうです。どんな品種、特性を持つ苗がさぬきの土地に生育しやすいのか、そして中国産とは異なる漆液をどのように使いこなしていくのか、さぬき漆の人々の研究はまだまだ続きます。

国産漆の取り組みは生産量の多い浄法寺や大子、また漆器産地として知名度の高い輪島や会津に目が行きがちでしたが、西日本にも小規模でも非常に熱心な取り組みがたくさん存在することを実感しました。
そして、未来のために努力を惜しまない皆さんの生き生きとした表情がとても印象的でした!

この日の夜、多田さんご夫妻、中田さんご夫妻と会食しながら、さらに詳しくお話を伺いました。

讃岐漆芸美術館の多田さんご夫妻の真摯な姿勢と言葉には、香川の漆芸と作家さんたちへの深い愛情が溢れていました。お人柄から、漆関係者のみならず地元の方々にとって頼れる存在であることが伝わってきます。香川漆器のことはもとより、様々な芸術に精通されていて、私は学ばせていただくことばかりでした。

中田漆木の中田さんはご一家で工房を営んでいます。家族それぞれの才能を生かしたチームワークはやはり温かい愛情にしっかりと支えられて揺るぎなく、それはもう羨ましくなってしまうほど!

皆さんとのお話は香川漆器の現状とこれからについて。
廃業する漆器事業者が多い、高松工芸高校の漆芸科や香川県漆芸研究所を修了しても漆の仕事で生計を立てることは困難で続けられない、など、他産地と同様に香川漆器の前途も決して楽観できる状況ではなさそうですが、一方で他産地とは明確に異なるアート性の高い個性に大きな可能性を感じます。

香川には、直島があったり、イサムノグチが拠点を構えた庵治石があったりと、アートが育つ素養があります。玉梶象谷が生み出し、今なお多くの人間国宝を輩出する香川漆器もそのひとつ。いずれにも共通することは、自然の風景や素材を生かし溶け込んでいること。

 
自然と共存しながらアートを育てる文化は、まさしくこれからの日本の暮らしが豊かであるために不可欠なファクターだと思います。

春になりました。
温暖な瀬戸内では、東北より少し早く植栽活動が始まります。

穏やかな青い海とオリーブの緑、そしてウルシの木の白い肌を想い、
すでにまた香川を訪れたくなっています。

訪問先:
香川県高松市内ウルシ植栽地

ご協力:
讃岐漆芸美術館
中田漆木