香川県漆芸研究所

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江戸時代後期から明治にかけて、相撲の番付表を模して、名所や料理などさまざまな分野の番付表が流行した。
その中に、漆(うるし)番付というものがあったという。
東の大関は輪島塗、そして、西の大関は香川漆器だった。
現在も、日本の漆芸技術後継者を養成する主な研修機関は2か所。
石川県輪島市にある「石川県立輪島漆芸技術研修所」と、香川県高松市にある香川県漆芸研究所である。

先日、高松を訪ねる機会があり、香川県漆芸研究所を見学させていただいた。

漆器というと通常はお椀やお重が一般的で、朱や黒の塗りだけで仕上げられたものを目にすることが多い。また、お正月などに使う豪華なものの場合は、金銀の蒔絵が施されているものを思い浮かべることが多いだろう。

一方この研究所では、香川県の伝統的技法である「蒟醤(きんま)」、「存清(ぞんせい)」、「彫漆(ちょうしつ)」の3技法を習得する。
香川や漆にあまり縁のないひとにとってはまず技法の漢字が難しい。。

江戸末期、高松の鞘塗り師、玉梶象谷(たまがじぞうこく)が、もともと中国や東南アジア伝来といわれるこれらの技法を京都で習得。その後、高松藩主の庇護の下、この技法をもとに独自の漆芸を確立して、香川漆芸として昇華させた。

漆を何層にも重ね塗り、そこに細い蒟醤剣で模様を彫ってから色漆を重ねて磨く「蒟醤」。
ベースの漆の層に色漆で紋様を描いてから彫り、そこにさらに色漆や金を重ねる「存清」。

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さらには非常に厚い漆の層を作ってからそれを掘り下げる「彫漆」。様々な色漆を重ねてあると、彫口からカラフルな色の層が現れる。

たとえば彫漆の場合、漆は数十回から数百回塗り重ねる。
乾かしながらなので、1日1回しか塗ることができない。たとえば100回塗るためには少なくとも100日を要する。重ねる色や順番は、仕上がりの図案から計算して割り出されている。彫り口を磨いて美しく滑らかに仕上げるのもプロならではの仕事だ。
単純に考えても非常に手間と時間と技術を要することが見て取れる。

江戸のころは漆といえば朱か黒だったが、現在は顔料が発達して、さまざまな色を出すことができる。
研修生が制作していたのは、アクアマリンのようなさわやかな色味の硯箱。
書をしたためるのが楽しくなりそうな、またはほかの小物も欲しくなってしまいそうなかわいらしい作品である。

研究所の1階には漆芸ホールがあり、卒業生たちの作品が展示されている。
陶磁器と見まがうほどの華やかな器物やシャープなスタイルの片口など、個性豊かで且つ高い技術には感心するばかり。

厳しい現実もある。
研究所を卒業しても漆の仕事は少なく、それだけで食べていくことはかなり難しい。感嘆するほど素晴らしい卒業制作を作った卒業生でも、漆の世界を離れてしまう確率は低くはない。

高い技術を要する香川漆器。他の産地とは異なる独特の技法を特徴としており、重要無形文化財保持者(すなわち人間国宝)の輩出も多い。偶然、この数日後に東京で蒟醤の重要無形文化材保持者の先生とお話をする機会をいただいたのだが、先生もまた、同様の危機感を感じておられた。何かしら新たな取り組みが行ってみたい。この権威ある産地から巣立つ卒業生たちが、伝統技術を継承し、さらに極めて新たな作品を作り続けていってもらうために。

香川県漆芸研究所。

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各年度で定員10名の狭き門ではあるが、入学すれば授業料はすべて県が負担。思う存分、漆芸技術の習得に打ち込める。芸大の漆芸家を出ている人もいれば、漆に関しては全くの素人という人もいるらしい。
興味がある方は、事前に申し込めば見学が可能だ。
ただし、香川の漆芸は特殊なので、多少の漆の知識を持ってから見学する方がよいだろう。

訪問先
香川県漆芸研究所
http://www.pref.kagawa.lg.jp/sitsugei/