会津の漆びと vol.1

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会津の漆を訪ねた。

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木地師、塗師、蒔絵師、そして漆の植栽活動をするNPO法人。
教わったこと、伝えたいことが多すぎる。
会津をもし一言で表すなら、近世以降の日本の漆の歴史、そして今を、そのまま体現している産地なのだと感じた。

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豊臣秀吉の時代に会津に入封した蒲生氏郷が、出身地である近江の国から木地師、塗り師を呼び寄せて産業奨励したのが、会津塗の基礎。江戸時代には蒔絵の技術も発展し、江戸後期には盛んに海外へ輸出されるようになる。
その後、幕末から明治維新の戦乱によって一旦漆器産業は壊滅しかけるが、パリ万博をきっかけに輸出用を中心に再興する。

会津は進取の気性に富んでいる産地なのだと思う。
戦後、プラスチックという新素材が注目されると、会津漆器産業に身を置く人々はすばやくこれを取り入れた。高度経済成長時代、大量生産による安価なモノづくりが求められると、ニーズに応えるべくコスト削減に邁進した。
しかし皮肉にも、その努力が会津塗の産業衰退へと繋がっていく。大胆なコストカットによって生まれた手ごろな会津塗は、結果的に本来の「漆器」というものから遠ざかっていくのである。
この傾向は会津にかぎったことではないのだが、会津は特にそれが顕著だった。

そして現在、世の中には安くて便利なものが溢れ、買い物はネットでクリックひとつ。多くの人にとって、漆器は高価で扱いにくく、特別な機会のために普段はしまいこむモノとなった。もしくは、本物の漆器が何かを見分けることも難しくなってしまっている。
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一方で、暮らしの価値観には小さな変化が生まれている。
モノを買おうと思えばいつでも買える。だからこそ買わない。本当に欲しいモノ、心が豊かになるモノ、大切にしたいモノとの出会いを待っている。
会津がこの変化に気付かないわけはない。

手間ひまかけて、こだわって、丁寧に作った本来の漆器を見つめ直す。
それが今の会津。

今回、会津の漆を案内してくださったのは、9月の奇数の会にゲストでお越しいただいた貝沼航さん。会津漆器の作り手と使い手をつなぐ「テマヒマうつわ旅」を展開している。工房に使い手を案内し、作り手の仕事、想い、会津という地域そのものを感じてもらう。そして、一生かけてゆっくり付き合う器に出逢う機会を作る。
この日は4軒の工房に案内していただいた。
髹漆(塗り)師の吉田徹さん、富樫孝男さん、木地師の三浦圭一さんの工房。もう1軒は、若き蒔絵師二瓶由布子さんのほくるし堂。
吉田さん、富樫さんは、貝沼さんが手がける会津漆器『めぐる』の塗りも担当している。

富樫さんの工房では、会津鉄錆、玉虫塗などの伝統手法が富樫さんのデザインで現代的に生まれ変わった、美しい作品に目が釘付けに。

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『めぐる』の日月というお椀も富樫さんが手がけている。木地が見えないように漆を塗る花塗りと、木地が透けて見える拭き漆という手法と、2種類あるのだが、個人的には華やかな赤みを帯びた拭き漆のお椀に一目ぼれした。これほど美しい拭き漆に私はあまり出会ったことがない。

吉田さんには修業を始めたころのこと、産地のこと、作りのこと、漆液のこと、とてもたくさんのコトを教えていただいた。

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そして、『めぐる』の企画を始めた時の素直な感想を話してくれた。
貝沼さんが相談に来たとき、「下地の回数から塗りから漆の質からこだわって指定が来るっていうのは初めてだったんです。ホントにこんなことやって売るの?って思った。」
「でも、こういう売り方をするならこういう作り方をしなければ通用しないと気づいたんです。」

吉田さんも富樫さんも、漆器店からの塗りの注文を受ける家業を継ぐ一方で、自らの作品にも精力的に取り組み、弟子も育てている。かつて会津漆器のあり方に疑問を持ち、ホンモノを学ぶために木曽の佐藤阡朗氏に師事した。
今の、そしてこれからの会津を率いていくのは、こうしたホンモノ志向の若い塗師たちと、ホンモノを見分けるわたしたち使い手の目だ。

その後、木地師の三浦さんの工房を訪れる。

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2階建ての工房には所狭しと天井裏まで山のように木地が積んである。

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何十年も寝かされてそれぞれに出番を待っている。木の種類や大きさにもよるが、水分が抜けるまでに2-3年。木も呼吸をしているので、縮んだり伸びたりの動きがあったあと落ち着いてくる。きちんと寝かせた木地を使っていれば、例えば海外のような環境の異なるところに持って行っても狂いが出ることは少ない。

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ろくろを回す三浦さんの横には様々な種類のカンナが置いてあるのだが、なんと三浦さんはカンナまで自分で作る。木工ならともかくも、鍛冶仕事までやってしまうとは驚いた。
会津の木地師の歴史は古く、江戸時代には良木を求めて山から山へ家族で渡り歩いた職人集団。三浦さんがその流れを汲んでいるのかは聞き忘れてしまったが、重たい木と刃物が相手の職人はたくましい。

最後に訪れたのは古民家を改装した、できたてほやほやのオシャレな工房、ほくるし堂。

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工房の主は笑顔が愛くるしい蒔絵師の二瓶由布子さん。同じく蒔絵師のお父さんと一緒にデザインをして、実家の別棟を改装して工房を作った。部屋がいくつかあるので今後は他の作家さんたちとシェアをして、2階はギャラリーにするという。
ほくるし堂は「とうほく x ほくほく x ほくおう」がテーマ。
由布子さんは初めて北欧を訪れたとき、「会津に似てる!」と思ったそうだ。冬は雪深くて薄暗い。ほとんど家の中で過ごすから、北欧家具は温かで色彩豊か。そんな北欧デザインにインスピレーションを得た由布子さんの作品はカラフルでかわいい。

漆器職人は男性の世界というイメージが強いのだが、由布子さんにしろ、吉田さんや富樫さんのところで会ったお弟子さんにしろ、若い女性の方が多かった。新しい会津塗が暮らしに息づくホンモノの漆を志向することのひとつの表れだと思う。
自らも暮らしを愛おしむ使い手でありたいとほっこりした気分になって、漆器三昧の幸せな一日が終わった。

翌日は会津で漆の植栽を続けるNPO法人はるなかの活動に参加。
会津の漆びと vol.2へ)

<訪問先>
塗り     富樫孝男氏 工房
塗り     吉田徹氏 工房
木地     三浦圭一氏 三浦木工所
蒔絵・漆絵  二瓶由布子氏 ほくるし堂
案内     テマヒマうつわ旅

食卓の源流を旅しよう。五感で本物に触れる、特別な漆器の工房体験をあなたに。工房の空気を胸いっぱい吸い込み、うつわが生まれる瞬間に目を奪われ、職人さんの言葉にゆっくり耳を傾ける。さあ、手しごとの世界へ出かけよう。