会津の漆びと vol.2

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会津滞在2日目。「NPO法人 はるなか 漆部会」の活動に参加させていただいた。

日本の漆文化を繋いでいくために漆の植栽を拡大することが不可欠だと感じていたので、実は今回の会津訪問の大きな目的のひとつ。

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副部会長の鈴木勘右衛門さんが話してくださった。

「会津はもともと漆の苗木の供給地として全国トップシェアだったんですよ」

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幕末から大正にかけて活躍した初瀬川健増という人がいた。

幕末に会津藩の蝋漆木(ろううるしぎ)取締役に着任。維新以降も会津の漆産業振興のために様々な功績をのこした。そのひとつが苗木作り。「漆樹栽培書」という著書も残している。

蝋漆木という役職名からわかるように、漆の実からは蝋がとれる。西日本ではハゼの実から蝋を作るが、東日本では会津の漆ろうそくが多く流通していた。

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この時期の漆の木は葉が落ちて実だけが下がっているのでこれが漆の木の目印。

鈴木さんはこうも言う。

「漆は重要な軍事物資でもあったんです。」

武士の時代には武具に塗り、維新後は軍艦の船底や爆弾に塗る。

化学塗料や薬品が少なかった時代、漆は漆器のためだけではなく、錆止め、腐食止めの塗料としても重用されていた。富国強兵の時代、漆の需要も高かったことだろう。

戦後、会津の漆産業は衰退していくのだが、近年、ふたたび会津に大切な人がやってきた。

伝説の漆掻き職人、谷口吏さん。

漆を愛し、漆の木を求めて全国を旅して仕事をする谷口さんは、会津の地を気に入り、十数年前から会津に腰を落ち着けた。

「谷口さんがね、亡くなったんですよ。今年の5月。」

66歳だったそうだ。鈴木さんたちによる漆の植栽を後押ししたのは谷口さんだった。将来の会津漆器のことを考えて今から植栽をしよう、と。

この日は別の畑で育てていた苗木を植栽地へ植え替える作業。苗木の一部は谷口さんが育てていたものだった。半日会員の皆さんに混ざって作業に参加していると、何度も谷口さんの名前が出てくる。とても大きな存在の方だったのだろう。

畑は植栽地からずいぶん離れた場所にあった。素人目には植栽地の周りにも畑にできそうな空き地があるように見えてしまうのだが、もちろんすべて持ち主のある土地なのだからそうそう都合よくいくものでもない。車を30分ほど走らせた小高い山の中の畑へ向かう。シャベルでガッシガッシと漆の20本ほどの苗木を掘り起こし、ふたたび植栽地へもどる。

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幸い小雨も弱まってきた。植栽地には人が集まっている。テントの横にあるのは大きなお鍋。嬉しいことに、手作りの昼食をごちそうになった。

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木のぬくもりを感じる少し大きめの漆椀でいただく炊き込みご飯と豚汁。そして手作りのお漬物。なんと美味しいことだろう。もちろんおかわり。

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昼食をいただきながら、集まった方々にお話を伺う。私の話もこちらが恐縮してしまうほど皆さん真剣に聞いてくださる。
仕事を引退してから何か地元のためになることをしようと参加している魅力的な女性。今日はヘルメットとシャベルが似合うガテン系だけれど、本職は繊細な漆器づくりをしている体の大きな若者たち。漆に恋してしまった埼玉出身の女子は最近会津のブドウ農家さんのところにお嫁に来た。自分も埼玉育ちの漆好き。無性に共感してしまった。

午後の作業は持ってきた苗木を春まで寝かせるための仮植え。秋に本植えすると根付く前に冬のドカ雪にやられて折れてしまうのだそうだ。

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それが終わるとチェーンソーを持ちだして、大きくなりすぎた周囲の木を倒して整地。本職さながらの手さばきだ。

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活動を応援させてください、と厚かましく申し出た私に対して、年配の美しい女性が答えてくださった。

「10年くらいやってきて、やっとあなたのような方々と巡り合えた。やってきた甲斐があったと思いますよ。皆さんの力が必要なんです。」

こういう方々の努力が日本の自然と文化を支えている。

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漆が苗から育って漆液を掻くことができるようになるまでに15年ほどの年月がかかる。その間、放置しておけばよいわけではなく、毎年夏には下草刈りをしたり、害虫を退治したり。手間がかかる。

でもそれがよい。

文化とは人が手をかけて紡いでいくものだから。

日本の暮らしの文化とは、自然の中で共存しながら育ててきたものだから。

年長者は未来の若者たちのために汗を流す。

若者たちは自らの土地に引き継がれる文化と資源に誇りを持って集まってくる。

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植栽地にはまだ植えて6-7年の細い木が並んでいるのだが、端の方に少し太い、掻き傷の残った木があった。谷口さんが若手職人に漆掻きを教えた掻き跡だ。

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教わった一人は会津出身で現在は岩手県の浄法寺で漆掻きと漆塗り作家として活躍する鈴木健司さん。私を会津と結んでくれた会津漆器『めぐる』にも鈴木健司さんの漆が使われている。

私は谷口さんにお会いすることができなかったが、谷口さんが教えた鈴木健司さんのお椀を使い、そしてこの日、植栽地での作業の様子を見守るかのようにたたずむ谷口さんの木にめぐり会うことができた。

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<訪問先>

NPO法人 はるなか 漆部会