明るい匠たち やさか村ワタブンアートファブリック

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「また来るね!」

帰り際に出たのは本気で思ったこの言葉。

こんなにも愛情と笑顔にあふれた工房に出会ったことがない。

場所は中国山地の山間に位置する島根県浜田市弥栄(やさか)町。旧弥栄村。山道をくねくねと車を走らせた先にあるのだが、正直なところ地元の方の案内がなければ自分でたどり着けるかは自信がない。それでもまた絶対に来たいと思うのはそこで働く人々の底抜けに明るい笑顔と温かさがたまらなく幸せな気持ちにさせてくれるから。

やさか村ワタブンアートファブリック。

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代表の河野さん以外は女性ばかりの匠集団。

もとは京都の西陣織の老舗「渡文」の織物工場だった。 工場には今も28台の手織の織機が並び、かつては質の高い高度な技術を要する西陣織の帯を生産していた。

しかし、近年、着物の需要が伸び悩む中、追い打ちをかけるように発生した2011年3月の東日本大震災。この時、呉服業界はかなり厳しい状況に見舞われた。この弥栄の工場も例外ではなく、やがて閉鎖されることになった。

河野さんがこの時の工場長。

河野さんとお話をしていると、工場と従業員、地域に対してのそこはかとなく深い愛情が伝わってくる。このころのご苦労はどれほどだったことか、想像に難くはない。このときの経験も今の明るさと抜群のチームワークの原動力なのだろう。

まもなく、河野さんたちは動き始めた。

ひとつは地元の子供たちが参加できる織物体験。

織物体験

縦糸と横糸の色を選び、小型の手織り機で機織り体験ができる。これがまた夢中になるほど楽しい。

河野さんが分かりやすく説明してくれる中、女性スタッフの方たちが手本を見せ、参加者が少し織り進むと「あら上手ー」「いい色だわ―」とテンポよく盛り上げる。悪い気はしない。調子に乗って織り機を動かす。

ツートントン、ツー・・・・・トン・・・トン(ありゃ、間違えた、左足と右足どっちだ?)

などとやっているうちに、多少難ありながらもランチョンマットが織り上がった。大人でも十分楽しめる。

もう一つは現在の代表的な商品「キビソ肌友だち」の生産。

キビソ肌友だち

キビソとは、カイコから生糸を取り出す時に最初に採取されるあばれ糸と呼ばれる部分で、ゴワゴワと硬い。繭が自らを守るシェルターの役割をしている。

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そのキビソにはセリシンという絹たんぱくが豊富に含まれる。保湿性が高く、活性酸素の働きを抑える。つまり美肌成分なのだ。

糸とはおよそ言えないゴワゴワの代物。捨てられるのは織りにくいから。

そこで活かされたのが西陣の難しい帯を織っていた匠たちの技術である。手織だからこそ、このあばれ糸を操れる。

そうして生まれたのが美肌タオル、「キビソ肌友だち」。 1回使って肌がピカピカになるというものではない。100%自然素材のキビソの効果は、使い続けるとじんわり感じ始める。数日使ってみて「あれ?いいかも。」と気づくパターンだ。あくまでも個人的なことだが、顔のTゾーンにソフトタイプ、ひじかかとにはハードタイプを愛用中。

河野さんは今もカイコを「お蚕さん」と愛情を持って呼ぶ。 人間はお蚕さんが作った繭から採れる生糸でオシャレをしてきた。お蚕さんに感謝して、同じく繭からとれるキビソも捨てずに大切にしたい。そして、京都の会社から独立して自分たちでモノづくりをするのだから、こんどは島根ならではのモノづくりをしたい。

田舎ならではのゆったりした時間が伝わるモノづくり。 地元の人たちが楽しめるのモノづくり。 お年寄りが多いからお年寄りにも優しいモノづくり。

それを支えるのが匠たちの確かな技術と明るい笑顔。

機械化や需要の変化の波が押し寄せ、伝統的な工芸や産業の存続が困難になることはあまり珍しくない。しかし、そこに培われた高度な技と地域に根付く文化は生きている。それを活かしたモノづくりができるはず。

そうして生まれ変わった明るい匠たちは、いまや地域になくてはならない存在になっている。

最後に、真綿のショールを見せていただいた。細々とではあるが、キビソ以外の絹製品も作り続けている。

真綿ショール

様々な色や柄が織り込まれている真綿の軽くて暖かいショールはふんわりと柔らかい。思わず顔をうずめたくなってしまうような優しさに包まれている。

「また来るね!」

そう言って車に乗り込み帰っていく私たちを、スタッフ全員で外に出て文字通り見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。こちらも手を振り返し、心の中で何回も「また来るね」と呼びかけてみた。

訪問先

やさか村ワタブンアートファブリック